「やはり、私達が動かなくてはならないようですわね…」
仮初めの平和の中、全てをその腕に抱き癒す母のような少女が告げる。
少女と供にある最も近しい対の二人は、それと共に偽りの日々の終局を知った。
「どうか、気を付けて…。もしあの子達に会う機会があれば、『無茶はするな』って伝えて?」
暁闇の中、空と同じ黎明の色を宿した瞳ははかなく揺れる。
「…あっ」
「どうした?ステラ」
「アスランがいるの…」
「えっマジ!?…ってなんだよ、『アレックス』じゃん。あれじゃ会いにいけないか…」
遠目に行き過ぎる人影を慕わしげに見送りながら、子供達は戦場に向かう。
「だが大きすぎる力はまた争いを呼ぶ!何でこんなものが必要なんだ!!」
自らが道化である事にも気付かない少女は、無為無策のまま感情に任せて叫ぶ。
「来いっ!」
「…え?」
「こんな処で君を死なせる訳に行くか!!」
道化には道化の役割がまだあるのだから、それを果たしてもらわなくては困る。
突然の状況の変化にただ嘆くばかりで、足手纏いでしか無いものに苛立ちながらも、自らの役割を果たすべく、彼の者はMSを駆った。
「御前達、時間が掛かりすぎているぞ。早く撤収しろ。…それから、『無茶はするな』とあいつから伝言だ」
この場合枷でしか無いものが、負傷した際の衝撃で気を失ったのをこれ幸いと、対の少女からの伝言を伝えた先、弟妹達の素直な反応に笑みを誘われながら、『軍神』の名を与えられた艦に向かった。
「アスランッ!」
突然のエマージェンシーにあえて驚いてみせれば、場を弁えずに名を呼んだ道化に呆れるしかない。
「君達は君達の願いを叶えるために。私は私の望みを叶えるために。そのためなら、『世界』を欺くことさえ厭わない。そうだろう?」
彼らに近しい者を知る橙色の瞳の男は、不敵にそう言って笑った。
「何故分からん!パトリック・ザラの採った道こそ唯一正しい道であるとッ!!」
亡霊に憑かれた男の叫びに、沈黙と斬撃をもって返礼に代えた。
「貴方みたいな人が、何でオーブなんかにいるんです?」
知らぬが故に純粋な同胞の問いは、道化の前で答えられるものではなく。
「お帰りなさいませ、アスラン」
「…お疲れさま。大丈夫…な訳無いよね・・・。でも、君が無事でよかった…」
心から労いを掛けてくれる2人の存在が、何よりも癒しを与えてくれた。
「オーブが地球軍に付いたら、僕達も動くよ。…また、しばらく逢えなくなっちゃうね」
互いに熱を与えあった名残に微かな艶を残しながら、愛しい少女はしどけなくその身を委ねてくれる。
「それでは、私達も参りましょうか」
そして、世界を巻き込んだ戯曲は幕を開けた
…。
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