風呂上がり、体の芯まで暖まり完全リラックスモードとなったキラは、ここ数日かかり切りになっている作業を続けようと、道具の一切合切を置いているリビングに入った。
だが、視界に入ったある異様な光景に、入り口に突っ立ったまま身動きがとれなくなる。
鷹揚としていて、多少のことでは動じない(というよりむしろかなり鈍い)キラをフリーズさせたもの…それは、なにやら鼻歌まで歌い出しそうな上機嫌さでものを作るアスラン、だった。
普段からマイクロユニット制作を趣味の域に止まらず最近では生業としているアスランなので、彼が何かを作っている姿というのは別に珍しくも何ともない。
いや、彼が手にしているのが工具やパーツであるなら、キラもアスランが何かを作りながら鼻歌歌おうが1人ボケツッコミしようが一向に気にしないのだ。<ちったぁ気にしてください。
だが今のアスランはというと、何故か手作りと思しきぬいぐるみ(この場合は人形と表するべきだろうか?)と裁縫道具を手にしているのだから、固まってしまうのも無理はない。
茶色い髪に紫の目。
白い大きな襟の黒いジャケットにはアクセントに赤いベルトがついている。
さらには萌黄色のスラックスに黒い靴を履いた姿と来れば、知りすぎるほどよく知っているその取り合わせで。
現在進行形でアスランの手によって完成に近付いているソレに、キラは軽い眩暈をおぼえた。
「
アスラン、それ…ナニ・・・?」
あまりの衝撃に固まっていたキラが、何とか口を利けるまでに回復しての第一声がコレ。未だ衝撃から抜け切れていないのか激しく動揺しているのかは定かではないが、その声には一切の抑揚もない。
訊くまでもなく答えは分かり切っているのだが、人は認めたくない現実と直面した時、問わずにはいられないものらしい。
「あぁこれ?『おはようキラたん』だよ」
すいすいと器用に針を操りながら、アスランは事も無げに、さも当然の様にそう答えた。
なんだソレは。
いや、とりあえず僕に似せて作られたぬいぐるみだっていうのは分かった。
でもさ…いわれるまでもなくそうかなー、なんて思ったりもしたけど、否定して欲しかったよアスラン…(涙)
じゃなくて。
なんで君はそんなお子さま向け玩具みたいなネーミングの僕のぬいぐるみを作ってるんだ!!
キラの心理的葛藤を余所に、作業の手を止めたアスランは、ふ…と明後日の方向に視線を流す。
「ラクスに『誕生日プレゼント』でリクエストされてね…」
遠い目をして此処ではない何処かに思いを馳せるアスランは、妙に黄昏れた雰囲気を纏って哀愁の滲む声音でぽつりと呟いた。
「
あ、そうなんだ…」
たったそれだけで、何となくその時の状況が推察できてしまったキラもまた、アスランと同じく背後に哀愁を漂わせて何処か遠いところを見遣っていた。
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