ミネルバに同乗させてもらっていた頃は、何故か赤スーツの予備があったからそれを借りたものの、せっかく特別待遇になったからにはパーソナルカラーを使いたいのが人情というもの。
2年前の特務隊昇進の折りには色々とあって叶わなかったが、今回はその絶好の機会ということもあって、傍から見た限りでは分からないものの(いや、見る人が見れば丸わかりなのだが)、彼は随分と気合いが入っていた。
フェイスの証である胸章をいただき、書類上の手続きその他諸々も済ませて、コレで晴れてセイバーはアスランのものと言う段になって、思い出したようにデュランダル議長が言った。
「そういえば君のパイロットスーツだが、『赤』で良いかな?」
意見を聞くと言うよりむしろ確認を取ったに過ぎないデュランダル議長の言葉だったが、デュランダル議長を筆頭にザフト兵からプラント在住の一般市民な方々に到るまで、アスラン・ザラと言えば赤というイメージが定着していたのだからある意味それは当然の事だったのだが…。
「いえ、
『紫』にして下さい」
自身の取るべき道に思い悩んでいた時とは大違いなキッパリハッキリ告げられたソレに、たまたまその場に居合わせた一同は目が点になった。
紫…何故に紫!?いったいソレはなんの冗談だ!?と内心冷や汗をかく一同を余所に、あくまでも貴公子然とした態度でありながら妙な気合いを感じさせるアスランの姿は、さすがにイロイロと人生の荒波を潜り抜けてきていると思われるデュランダル議長でさえ数瞬は固まってしまった。
「り、理由を訊いてもいいかね?」
伊達でプラント最高評議会議長はやってないだけあって真っ先に我に返ったデュランダル議長は、内心『しょーもない理由やったら即効却下したる…』と何故か関西弁で思いつつもそんな素振りは微塵も感じさせずに、極めて紳士的な態度(でも限りなく胡散臭いが)で問いかけた。
周囲の人々の内的葛藤など知る由もない当のアスランは、まさかそんなことを訊かれるとも思ってなかっただけに僅かに驚いたものの、すぐに何かを思いだしたのか穏やかな表情になり、何故か甘さの滲む声で簡潔に答えを返す。
「
『特別』なんです…」
思いを馳せるように何処か遠くを見つめる眼差しは優しい光を湛え、普段はニコリとも微笑むことのない玲瓏とした印象を与える相貌はうっすらと頬を染めて穏やかな笑みを刻んでいる。
『アナタ一体誰デスカーーーッッ!?』
いつもの硬質な印象とはうって変わった柔らかな雰囲気を纏うアスラン・ザラという存在に、周囲は阿鼻叫喚の声ならぬ悲鳴と共に、ツンドラ地帯も真っ青な心理的ブリザードに見舞われた。
その後、常ならぬアスランを面白がったデュランダル議長がイロイロと根掘り葉掘り聞き出そうとする中、『背景に絢爛の花を背負い、甘ったるいことこの上ない空気を振りまきながら微笑むアスラン・ザラ』にこの上ない恐怖を見た作業員一同によってF1のピットクルーも真っ青の驚異的スピードで出立準備を整えられたセイバーは、デュランダル議長に言われた『君は君自身の信念に忠誠を誓えばいい』を額面通りに受けとったアスランの望むままに、一路オーブ(というよりはむしろ某隠遁生活中のパイロット君)に向かって驚異的なスピードで跳び去ったという…。
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