アスランの機転により謎の戦艦を退けたミネルバの中では、もう一つの修羅場を迎えようとしていた。
あの状況で艦長であるタリアよりも素早く状況を判断し、的確な指示を与えた『アレックス』が、アスハ代表のただの護衛だと言われても今更このブリッジで信じる者はいない。だが、そうなると彼が何者かと思うのは至極当然だろう。
そんな中、何やら訳知り顔をしていたデュランダル議長が、ブリッジクルーの疑問を代弁するかの様に口を開いた。
「アレックスくん、君の本当の立場と名前を聞かせて貰っても良いかね?先程の判断や指揮を見て、今更『ただの護衛』といっても誰も納得はすまい」
何やら含みのある笑みで問い掛けてきたデュランダルに、あくまでも彼自身の口から事実を告げさせようとする意図を読み取ったアスランは、胸の内で深々と嘆息すると、何処か諦めを含んだ口調で答えた。
「…平和維持機関ミール機動特務隊所属、アスラン・ザラ。…先程は差し出がましい真似をしました」
何処か投げ遣りにも聞こえる素っ気ない口調で身元を明かしたかと思うと、後半は艦長であるタリアに向けて深々と頭を下げた。
「ミールって…アスラン!?」
初めて聞かされたそれに動揺したカガリはアスランに詰め寄ろうとしたが、思いがけず冷然とした視線をアスランから向けられ、それ以上言葉を重ねることは出来なかった。
「いえ、そのおかげで助かったのも事実ですから。…でも『ミール』なんて噂では聞いていたけれど、まさか実在していたなんてね」
ミネルバの窮地を救った事を恩にきせるでもなく、部外者でありながら口出ししたことを詫びたアスランに、タリアはわずかにけんを帯びていた眼差しを緩めると、些か呆れを含んだ声音で答えた。
緊迫した空気が薄れた事に幾分緊張を解いたのか、身元を証してからはすっかり開き直ったらしいアスランは、『アスラン・ザラ』の名にどよめくブリッジクルーから向けられる好奇と羨望の眼差しにも臆する事無く、デュランダル議長やグラディス艦長と向き合い、苦笑を零した。
「元より平時には表立って活動することない組織の特性上、大体的に告知していませんから。それに、ミールの理念は理想主義者の戯言と受け取られても仕方の無い部分もありますので」
自分の属する組織に対し、ある意味酷評ともとれることを言ってのけたアスランは、軽く肩を竦めてみせて。
「まぁ、私自身もそれに賛同したからこそ、こうしているのですが」
気負いも躊躇いも無くそう言い放った。
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